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HD 16760

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
HD 16760 A
星座 ペルセウス座
見かけの等級 (mv) 8.74[1]
分類 G型主系列星[1]
位置
元期:J2000.0[1]
赤経 (RA, α)  02h 42m 21.3134499936s[1]
赤緯 (Dec, δ) +38° 37′ 07.231908072″[1]
赤方偏移 -0.000012[1]
視線速度 (Rv) -3.586 km/s[1]
固有運動 (μ) 赤経: 73.809 ミリ秒/年[1]
赤緯: -106.607 ミリ秒/年[1]
年周視差 (π) 17.5714 ± 0.5942ミリ秒
(誤差3.4%)
距離 186 ± 6 光年[注 1]
(57 ± 2 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) 5.0[注 2]
物理的性質
半径 0.81 ± 0.27 R[2]
質量 0.78 ± 0.05 M[2]
表面重力 4.47 ± 0.06 (log g)[2]
スペクトル分類 G5V[2]
光度 0.72 ± 0.43 L[2]
表面温度 5,629 ± 44 K[2]
色指数 (B-V) 0.715[2]
金属量[Fe/H] 0.067 ± 0.05[2]
年齢 13 ± 9 億年[3]
他のカタログでの名称
BD+37 604[1]
GSC 02845-02243[1]
HIP 12638[1]
SAO 55798[1]
TYC 2845-2243-1[1]
2MASS J02422130+3837073[1]
Template (ノート 解説) ■Project
HD 16760 B
星座 ペルセウス座
見かけの等級 (mv) 10.27[4]
分類 K型主系列星[4]
位置
元期:J2000.0[4]
赤経 (RA, α)  02h 42m 20.9504185128s[4]
赤緯 (Dec, δ) +38° 37′ 21.159114852″[4]
赤方偏移 -0.000012[4]
視線速度 (Rv) -3.46 km/s[4]
固有運動 (μ) 赤経: 82.112 ミリ秒/年[4]
赤緯: -107.548 ミリ秒/年[4]
年周視差 (π) 20.087 ± 0.0209ミリ秒[4]
(誤差0.1%)
距離 162.4 ± 0.2 光年[注 1]
(49.78 ± 0.05 パーセク[注 1]
絶対等級 (MV) 6.8[注 2]
物理的性質
スペクトル分類 K2V[2]
他のカタログでの名称
BD+37 604 B[4]
GSC 02845-02242[4]
HIP 12635[4]
TYC 2845-2242-1[4]
2MASS J02422094+3837212[4]
Template (ノート 解説) ■Project

HD 16760ペルセウス座の方角にある連星系で、太陽系から約190光年離れている。恒星A (HIP 12638) は太陽に似た9等級のG型主系列星で、10等級のK型主系列星の伴星 HD 16760 B (HIP 12635) との実視連星である[1][2]地球から見た両者の恒星の間隔は14.6秒角で、物理的距離は 660 au 離れているとされている[2]

2009年7月、主星Aの周囲を木星質量の10倍程度の質量を持つ天体が公転していることが報告された。太陽系外惑星褐色矮星のどちらに分類されるべきかは2009年の時点では確定していなかったが[2]、後にそれよりも遥かに大きい赤色矮星ほどの質量を持っていることが判明した[5]

惑星系

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2009年、視線速度法によって太陽系外惑星の探査を行っていた2つの独立したプログラム (SOPHIE, N2K) が、主星 HD 16760 A の周囲を公転する天体 HD 16760 b の発見を報告した[2][6]国際天文学連合の太陽系外惑星作業グループは惑星と褐色矮星の暫定的な分類方法として、重水素核融合が起きるか起きないかの境界(13木星質量)に基づいたものを提示しているが[7]軌道傾斜角が90度であると仮定したときに求められる HD 16760 b の下限質量は 13.13 ± 0.56 木星質量と見積もられ誤差の範囲でこの境界と重なっている。また、恒星と同じような過程で作られる天体は一般的な連星と同じようにつぶれた楕円軌道を持つ場合が多いが、HD 16760 b の軌道は真円に近い。これは、この天体が惑星と同じように、恒星の周りに作られた原始惑星系円盤で形成された可能性を示している[6]。惑星の形成を説明するコア集積モデルの研究では、原始惑星系円盤から形成される天体は最大で20 - 25木星質量に達することを予測するものもあり[8]、褐色矮星と惑星の分類基準については議論が続けられていた。

しかし、地上から行われた補償光学による直接観測で求められたデータを分析した結果、HD 16760 b の軌道傾斜角がわずか2.6度しかない、ほぼ地球に対して正面を向けた軌道で公転していることが2011年に報告された[9]。これにより、HD 16760 b の質量は太陽質量の 0.28 ± 0.04 倍、木星質量にして 293 ± 42 倍[注 3]へと大幅に上方修正され、惑星や褐色矮星どころか赤色矮星クラスの規模の天体であることが示された[9]。そして2020年ガイア衛星による位置天文学的測定の観測結果から、実際に HD 16760 b の軌道傾斜角が非常に小さく、赤色矮星クラスの質量を持つ天体であることが正式に確認された[5]。この報告を受けて、太陽系外惑星エンサイクロペディアでは惑星の現況を Retracted(撤回)とし、正式に確認された太陽系外惑星が掲載されるリストから除外している[10]

HD 16760 Aの惑星
名称
(恒星に近い順)
質量[5] 軌道長半径[11]
天文単位
公転周期[11]
()
軌道離心率[11] 軌道傾斜角[5] 半径
b (惑星としては撤回) 291.9+120.7
−69.4
MJ
1.161 ± 0.097 466.048 ± 0.057 0.0812 ± 0.0018 3.164+0.810
−0.762
°

脚注

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注釈

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  1. ^ a b c d パーセクは1 ÷ 年周視差(秒)より計算、光年は1÷年周視差(秒)×3.2615638より計算
  2. ^ a b 視等級 + 5 + 5×log(年周視差(秒))より計算。小数第1位まで表記
  3. ^ 1太陽質量を1,047.35木星質量として換算

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Results for HD 16760”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2022年4月22日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m Sato, B.; Fischer, Debra A.; Ida, Shigeru et al. (2009). “A Substellar Companion in a 1.3 yr Nearly-circular Orbit of HD 16760”. The Astrophysical Journal 703 (1): 671–674. arXiv:0907.5080. Bibcode2009ApJ...703..671S. doi:10.1088/0004-637X/703/1/671. 
  3. ^ Bonfanti, A.; Ortolani, S.; Piotto, G. et al. (2015). “Revising the ages of planet-hosting stars”. Astronomy and Astrophysics 575: A18. arXiv:1411.4302. Bibcode2015A&A...575A..18B. doi:10.1051/0004-6361/201424951. 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Results for HD 16760B”. SIMBAD Astronomical Database. CDS. 2022年4月22日閲覧。
  5. ^ a b c d Kiefer, Flavien; Hébrard, Guillaume; Lecavelier, Alain; Martioli, Eder; Dalal, Shweta; Vidal-Madjar, Alfred (2021). “Determining the true mass of radial-velocity exoplanets with Gaia 9 planet candidates in the brown-dwarf/stellar regime and 27 confirmed planets”. Astronomy and Astrophysics A7: 645. arXiv:2009.14164. doi:10.1051/0004-6361/202039168. 
  6. ^ a b Bouchy, François; Hébrard, Guillaume; Udry, Stéphane et al.. “The SOPHIE northern extrasolar planets. I. A companion close to the planet/brown-dwarf transition around HD16760”. Astronomy and Astrophysics 505 (2): 853–858. Bibcode2009A&A...505..853B. doi:10.1051/0004-6361/200912427. 
  7. ^ Definition of a "Planet"”. Working Group on Extrasolar Planets (WGESP) of the International Astronomical Union. 2009年12月4日閲覧。
  8. ^ Mordasini, C.; Alibert, Y.; Benz, W.; Naef, D. (2008). “Giant Planet Formation by Core Accretion”. Extreme Solar Systems, ASP Conference Series 398: 235. arXiv:0710.5667. Bibcode2008ASPC..398..235M. https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2008ASPC..398..235M/abstract. 
  9. ^ a b Evans, T. M.; Ireland, M. J.; Kraus, A. L. et al. (2011). “Mapping The Shores Of The Brown Dwarf Desert III: Young Moving Groups”. The Astrophysical Journal 744 (2): 120. arXiv:1109.5900. Bibcode2012ApJ...744..120E. doi:10.1088/0004-637X/744/2/120. 
  10. ^ Jean Schneider (2021年10月20日). “Planet HD 16760 b”. The Extrasolar Planet Encyclopaedia. Paris Observatory. 2022年4月22日閲覧。
  11. ^ a b c Ment, Kristo; Fischer, Debra A.; Bakos, Gaspar et al. (2018). “Radial Velocities from the N2K Project: Six New Cold Gas Giant Planets Orbiting HD 55696, HD 98736, HD 148164, HD 203473, and HD 211810”. The Astronomical Journal 156 (5): 213. arXiv:1809.01228. Bibcode2018AJ....156..213M. doi:10.3847/1538-3881/aae1f5. 

関連項目

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